関西大学「科学と技術」2020年講義録(2)

教科書:伊勢田哲治(2003)『疑似科学と科学の哲学』の第二章

この章は天文学が主題であるのに,図版があまりに少ない。日本天文学会の天文学辞典に大いに頼ることになった。

10月14日

1.占星術と科学の微妙な関係

教科書の順序がいかにもやりづらかったので,歴史の話をしてから,「186人の声明」の話をして,現代の文脈で占星術の妥当性を検討するとどうなるか,で話を締めくくった。

歴史の話が,教科書の記述だけでは物足りなかったので,中山茂の著作で補った。天文学史は東洋と西洋の話を織り交ぜた方が面白いように思う。惑星に関する考え方も違う。あと,教科書のホロスコープの図版に星座の表示がないのが少々わかりづらい……と,占星術ばかり追いかけていたら,神秘主義の説明がやや手ぬるいものになってしまった。

占星術の妥当性についての箇所(教科書pp.71~72)に,日本の血液型性格判断の話を織り交ぜてみた。奇しくも「186人の声明」の時期に,日本では血液型性格判断がブームになっていたのである。

10月21日

2.蓄積的進歩からパラダイム論へ

ネーゲルの還元主義に入る前に,論理実証主義がどういうものか説明した。アリストテレスからフレーゲ・ラッセルへの転換がいかに大事件であったか,というのをついつい語ってしまう。また,ニュートン力学からケプラーの法則が数学的に証明できることは,今や東洋大学の講義が動画で見られる時代である。

アヒルとウサギの有名な図は,改めて調べたところパブリックドメインであることは確定したので,レジュメに掲載した。『Fliegende Blätter』97巻(1892)p.147である。ドイツ語がいかにも怪しいが,「ウサギがアヒルに似ているのか,アヒルがウサギに似ているのか,どちらだろうか」という趣旨のことを言っているはずである。観察の理論負荷性の説明としてこの図がどれだけ有用かはともかくとして,板書とレジュメと口頭で授業を進めているので,視覚的刺激として入れてみた。

パラダイム論の説明は,参考書として掲示している他の科学哲学の教科書の内容もだいぶ含めた。

10月28日

3.科学の変化と疑似科学

ニューサイエンス(ニューエイジサイエンス)の話は個人的に興味があったが,あまり横道に逸れるのも何なので最小限に留めた。参考書を用いて,パラダイム論が「科学者の共同体」に着目した理論であることを先週予め説明したのだが,教科書の記述だと突然に「科学者の共同体」が出てくる。また哲学用語としての「合理主義」「相対主義」の説明もないので,補った。

天文学と占星術は,パラダイム論の「通常科学」,ラカトシュの「新奇な予言」,ラウダンの「問題解決能力」といった概念で,一応は切り分けができる,というのが教科書の結論になる。ただ,占星術において「予言の自己成就」が起きている可能性はあるようなので(教科書p.71にそれらしき事例がある),占星術の歴史を紐解いたら,見かけ上,問題解決ができた事例はそれなりに出てくるのではないか……という気もする。

参考文献

中山茂(2019)『西洋占星術史 科学と魔術のあいだ』,講談社
⇒講談社学術文庫版。中山茂(1992)『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』,講談社(講談社現代新書)と同一。西洋だけでなく東洋(中国文化圏)の話も豊富で面白かった。