教科書:伊勢田哲治(2003)『疑似科学と科学の哲学』の第四章
12月9日
1.代替医療と機械論的世界観
(12月2日は発熱により休講にしたので一週間遅れ)
教科書では,代替医療を社会がどのように受容すべきかという問題設定をしているが,2020年現在において答えは出ている。つまり,補完代替医療だけにならないよう,現代西洋医療と併用すべきだ,というのが結論であろう。いわゆる「統合医療」である。
というので,補完代替医療については自分で調べ直したのだが,幸いにして厚生労働省の統合医療サイトが大変に充実していたので,調査の苦労は少なかった。教科書とは方針を変えて,日本の事例を中心に話したが,そちらの方が調査しやすいというだけでなく,医療に関する話題は自国の事例の方がわかりやすいのではないかと思う。
12月16日
2.科学社会学と相対主義
マートンの「マタイ効果」の言わんとしていることを,過去に受けた聖書教育の知識から理解した。新約聖書の福音書において「信仰を持つ者は更によいものを与えられるが,信仰を持たない者は既に持っているものさえ奪われる」というのは,嫌になるほど何度も出てくる話である。
ロイ・ウォレス編『排除される知』が面白かったので,教科書より踏み込んで内容を紹介した。ソーカル事件について触れるのは止めておいた。
院試対策に,何故かポパーもクーンも飛ばしてファイヤアーベントを読んだ記憶がある……というので,もう少しファイヤアーベントに踏み込みたかったような気もする。
12月23日
3.合理主義からの相対主義批判と社会への影響
講義録と言いながら,ただの日記で内容がないというのは,意図してやっていることなのだが,今回は少し内容にも言及する。
伊勢田(2003)の論点
- 正統な医学を無視して代替医療のみに目を向けることは,社会的な損失である
- 代替医療に何らかの治療効果があることを過小評価してしまうのも,社会的な損失である
- 代替医療を医療政策に組み込むのであれば,正統な医学を妨げないように配慮が必要である
現代的な論点
- 正統な医学の観点から問題ない代替医療を「補完代替医療」として受け入れ,正統な医学と補完代替医療を併用する「統合医療」が,患者・社会にとって有益である
- 「代替医療の排除は不可能である」という社会的価値判断が働き,「正統な医学の見地から有害でない代替医療を受け入れる」という知的価値判断に繋がった
ホメオパシーにおけるレメディを飲みたいならば(有毒な物質が含まれていない限りは)飲んでもよいが,正統な医学における薬と一緒に飲んでくれ,というのが,統合医療の言わんとしていることである。
もっとも,伊勢田(2003)の論点は,現代的な論点に結びつけることは可能である。代替医療が正統な医学の妨げにならないように配慮した結果が統合医療である,とは言える。
参考文献
厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/index.html
菅野礼司(1997)「機械論的自然観」,『物理教育』,45巻2号,pp.101-104
https://doi.org/10.20653/pesj.45.2_101
中野重行(2014)「プラセボ対照二重盲検比較試験における盲検性の水準とその確保」,『薬理と治療』,Vol.42no.5, pp.317-324
http://www.apmc.jp/book/sanko_pdf/s1-d-108.pdf
西村肇・岡本達明(2006)『水俣病の科学 増補版』,日本評論社
米本昌平(1978)「生気論とは何であったか」,『科学基礎論研究』,13巻4号, pp.163-169
https://doi.org/10.4288/kisoron1954.13.4_163
矢数道明(1981)「日中漢方医学(20世紀)の歴史的概観」,『日本東洋醫學會誌』32巻3号, pp.165-166
https://doi.org/10.14868/kampomed1950.32.165