関西大学「科学と技術」2020年講義録(5)

教科書:伊勢田哲治(2003)『疑似科学と科学の哲学』の第五章

1月7日

1.信じやすさの心理学

(12月2日を休講にしたことによる補講)

教科書p.207の事例に対して,菊池ほか(1995)『不思議現象 なぜ信じるのか』p.38を参照し,病気と検査薬の事例を補った。人口の1%が掛かる病気について,誤判定率5%の検査薬により陽性であった場合,本当に陽性である確率はどの程度か,という問題である。

教科書通りにレジュメを作ったのだが,事例を漫然と並べ立てたような授業になってしまった。前の章までの内容を踏まえて説明を考え直すべきだっただろうか。この節と相性がいいのはやはり第三章だろう。

1月13日

2.統計的に有意とは?

確率分布の話もせずに統計的検定法や有意性について語るのは困難である。正直に言うが,私も確率分布は手計算できない(Excelの関数を使うぐらいはできる)。後ほど気づいたが,オンラインで公開されている正誤表でも確率分布に関する記述は問題になっていた。コイントスのような単純な事例にして,確率分布は表で与えた方がよさそうである。

(2022/1/12追記)統計的検定法に関わる解説を,すべてコイントスによる二項検定に置き換えた。私はカイ二乗検定を短時間に・わかりやすく・正確に解説できるほど優秀な人間ではないので,こちらの方がはるかに楽だった。

1月20日

3.「程度」思考の有用性

この節の見所は「過小決定とベイズ主義」(pp.240-242)ではないかと思う。過小決定の問題に事前確率・予測確率・事後確率を持ち込むことによって,演繹的な推論と現実の科学の推論のギャップをうまく埋めることに成功している。

終章の要約を授業のまとめとした。この教科書については「線を引かずに線引き問題を解決する」(p.261)という一文が一人歩きしている印象を受けるのだが,どちらかといえば重要なのは「科学と疑似科学の間にもグレーゾーン(第3章の超心理学や,第4章の補完代替医療など)が存在する」「白黒の濃淡をつけるのに科学哲学の様々な議論が参考になる」という点ではなかろうか。

参考文献

菊池聡,谷口高士,宮元博章(1995)『不思議現象 なぜ信じるのか こころの科学入門』,北大路書房

小山慶太(1985)「科学と妄想-N線とポリウォーター-」,早稻田人文自然科學研究,28,pp.73-92
http://hdl.handle.net/2065/10191

東京大学教養学部統計学教室(編)(1991)『統計学入門』,東京大学出版会