1970年代後半期から1980年代前半期までの日本における個人を対象とするコンピュータとユーザの関係

マルチプルレゾリューション - JaLC

ざっくり解説

1970年代後半のマイコンブームは,コンピュータのアマチュアユーザを生んだ。それ以前のコンピュータはプロフェッショナルないし組織のためのものであった。

マイコンと8ビットパソコンは,開発史においても接続しており,ホビイストだけではなく「ビジネスにコンピュータを使いたい」というユーザの要求(BASICの需要)に広く応えた。

1980年代前半には,アマチュアにも使える目的特化型のコンピュータが2つ生まれた。1つはビデオゲーム専用機(ファミリーコンピュータ)で,もう1つは日本語ワードプロセッサ専用機である。これら目的特化型のコンピュータは,汎用機であるパーソナルコンピュータ(パソコン)よりも出荷された。家庭を対象とするパソコンも考えられたが,ビデオゲーム以外のソフトウェア市場が育たなかった。

言い訳

日本語ワードプロセッサについて,ジャストシステムについて言及がないのは何事かと怒られそうである。第5章については論点を絞るのが非常に難しく,第2章および第3章との関連づけが優先されたというのが実情である。

あとから、関口和一(2000)『パソコン革命の旗手たち』p.248に「ジャストシステムが一太郎を開発できたのは日本電気がMS-DOSを無償貸与してくれたから」という記述を見つけて愕然とした。本論文と矛盾する証拠ではなく整合する証拠が見つかって良かったと己を慰めたが……。

また,「オフィスオートメーション(OA)」と「CAI」に関しては意図的に調査を打ち切った。OAに関して今の段階で言えるのは,1960年代からのオフィスコンピュータ(オフコン)では対応しきれない小規模な需要に1970年代後半からのパソコンが食い込み始め,1980年代にはパソコン・オフコン・日本語ワードプロセッサ専用機の三つ巴になったようだ,という程度である。資料は所持しているが目は通しきれていない。

CAIはコンピュータ史と文脈が異なるようで,調査した限りでは教育学の方に論文が散らばっているようである。1980年代後半の「BTRON」でコンピュータ史と接点を持つが,それまでの経緯を詳細には追えていない。

8ビットホビーパソコンに関する見解

8ビットホビーパソコンは家電製品

8ビットホビーパソコンに関する私の最終的な結論は「家庭用パソコンの需要を見越したメーカによって『新たな家電製品』として考えられ,家電製品と同様の広告戦略と販路によって流通したが,ソフトウェア市場はビデオゲーム以外育たなかった」というものになる。たとえば「MSX規格パソコンは家電製品」と言って,当事者に納得してもらえるかどうかはわからない。

8ビットホビーパソコンの多くがテレビ受像機に接続できるのは、導入の費用を抑えるのはもちろんのこと、「家庭用パソコンは新たな家電製品である」という側面があったからである。つまり,家電として定着したテレビ受像機と,新たな家電であるパソコンが連携して使用できるという点が重要なのである。

8ビットホビーパソコンとファミリーコンピュータ

8ビットホビーパソコンとファミリーコンピュータは受容史において似通っている。ユーザにとっては,両方ともビデオゲーム機に相当するコンピュータであった,という結論はよく見かける。では何故、ファミリーコンピュータが商業的に成功したかといえば,その原因の一端は開発史の違いであろう。

ファミリーコンピュータはビデオゲームに特化して開発され,8ビットホビーパソコンはビデオゲーム以外も視野に入れて開発された。ファミリーコンピュータがビデオゲームの分野で成功したのは(ソフトウェアの品質管理を徹底したという話はもちろんのこと)開発史の時点でビデオゲームに特化していたからだ,という指摘はそこまで的外れでないはずである。受容史の前には開発史が存在するのである。

オンラインで読める文献紹介

コンピュータ全般に関する情報

IPSJコンピュータ博物館

産業技術史資料情報センター かはく技術史大系 I. 映像・情報・コンピュータ関連

明治大学経営学部佐野研究室 コンピュータに関する歴史的=理論的研究

日本電気のTK-80・PC-8001の開発史

NEC LAVIE 公式サイト 商品情報検索
「TK-80」「PC-8001」といった古い年代の機種も調べることができる。ただし網羅しているわけではない。

加藤明(2010)開発物語 PC-8001

遠藤諭(2019)ASCII.jp TK-80、PC-8001、NECのパソコンはこんな偶然から始まった
渡邊和也氏に対するインタビュー記事。

後藤富雄(2006)日本PC事始 その1 マイコンがボードコンピュータであった頃

後藤富雄(2006)日本PC事始 その2 デバイス屋が創ったNECのパーソナルコンピュータ「PC-8001」

佐々木潤(2020)PC-8001はこうして生まれた!生みの親 後藤富雄氏と加藤明氏にPasocomMini仕掛け人 三津原氏が聞いた!

富田倫生(1995)パソコン創世記