【訂正】1980年代の日本における「マイコン」概念の多面性

『技術と文明別号(電子版)』22号に掲載された研究ノート「1980年代の日本における「マイコン」概念の多面性」に誤謬があったので訂正する。

先の研究ノート1頁には,下記のような記述がある。

マイクロコンピュータの「マイクロ」という表現は,ミニコンピュータと対比したものである。ミニコンピュータは,1965 年に DEC 社が発売した PDP-8 がその始まりとされる。ミニコンピュータも,それまでのメインフレーム(汎用大型コンピュータ)よりも安価かつ小型化したコンピュータの意味で名付けられたものである。従って,マイクロコンピュータの元来の意味は,旧来のコンピュータよりも更に小さいコンピュータというものである。

鈴木真奈(2019)「1980年代の日本における「マイコン」概念の多面性」,技術と文明別号(電子版),22号,p.1

マイクロコンピュータの解釈として,このようなものがあったことは確かである。1980年代の日本において,「マイコン」は「個人用のコンピュータ」を意味し,「メインフレームやミニコンピュータのようなコンピュータよりも小さいコンピュータ」であった。
たとえば,研究ノート5頁で引用した『マイコン』誌1984年1月号の記事は「コンピュータの内,小型のものがミニコンで,超小型のものはマイコンである」という説明をしている。

しかし,嶋正利によれば,マイクロプロセッサの「マイクロ」の由来は次のようなものである。

CPU〔引用者注:インテル社の4004〕をマイクロプロセッサと名付けたのは,電卓に使用したマクロ命令と比較して,より低い(コンピュータの機械語に近い)マイクロな命令を採用したためである。

嶋正利(1987)『マイクロコンピュータの誕生』,岩波書店,p.2

その次のページにはインテル社のMCS-4のカタログが図版として掲載されており,「MCS-4はマイクロプログラミング可能なコンピュータセットである」と,はっきり書かれているのである。

The MCS-4 is a microprogrammable computer set designed for applications such as test systems, terminals, billing machines, measuring systems, numeric and process control.

嶋正利(1987)『マイクロコンピュータの誕生』,岩波書店,p.3(図4)

しかも,私は,嶋(1987)p.52の「〔引用者注:インテル社技術部長の丹羽氏が〕従来のマクロ命令によるプログラム論理方式を,さらにコンピュータの機械語レベルと同等のマイクロな命令によるものまで下げることに原則として同意した」という箇所に下線まで引いていた。

以上の通り,マイクロコンピュータの原義は「マイクロプログラミング(マイクロ命令によるプログラム論理方式)によって構成されたコンピュータ」である。

研究ノート執筆時にも,MCS-4について言及する際,嶋(1987)を引用するかどうか迷った記憶はある。情報処理学会歴史特別委員会(2010)『日本のコンピュータ史』,オーム社,p.23にもMCS-4についての記述があるため,最終的にそちらに差し替えたのだったが,その過程でとんでもない事実を見落としてしまったことになる。

この誤謬に気づいたのは,佐野正博氏の「マイクロプロセッサーおよびパーソナルコンピュータの歴史的発達過程と技術戦略」内における「世界最初のマイクロプロセッサ Intel 4004」を拝読したことによる。原資料を入手していた上に,このような優良なドキュメントがオンラインにあったにも関わらず,過ちを犯したことについては,猛省という言葉ですら手ぬるい。

私は当該資料を研究ノート執筆時に既に入手しており,なおかつ該当する記述を認識した痕跡もあった。ゆえに,この誤謬についてはあくまで私個人に責任がある。


(2021/2/17追記)
本研究ノートで参照した文部省通知「マイクロコンピユータの教育利用に関する調査について」だが,オンライン上で閲覧不可になっている。

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19830610001/t19830610001.html(リンク切れ)

現在は,国立国会図書館のインターネットアーカイブで閲覧可能である。

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11402417/www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19830610001/t19830610001.html(2019年12月2日アーカイブ)