近畿大学「思考の技術」2020年前期講義録(下)

6月30日(第8回)

内容は2019年第10回に準ずる。ただし,モンサントに関する情報は除去した。遺伝子組換え作物賛成派の「納得できる点」と「納得できない点」,そして「遺伝子組換え作物は自然であるか不自然であるか」を問うた。
教科書の順番通りの進行ではないのだが,動物の倫理の話をしてから,植物の遺伝子組換え(ゲノム編集)の話をする,という流れは個人的には気に入っている。受講者の少ない法学部では,その流れを強調する余裕があった。人間のために動物を利用することに比較して,人間のために植物を利用することに関しては倫理的な価値判断があまり働かないのである。「そんなの当たり前だろう」という突っ込みは,ユニット9「動物実験の是非」で,実は否定されている。植物の権利の可能性というものについても,ユニット9では論じているのである。

7月7日(第9回)

内容は2019年第11回に準ずる。モンサントに関する内容を一旦は除去したのだが,遺伝子組換え作物反対派は,モンサントのような企業の行いを批判しているので,どこかに情報が必要かもしれない。

文芸学部では若干時間に余裕が出たので,遺伝子組換え作物に対する日本の立場を説明した。日本で遺伝子組換え作物で商業栽培されているのは「青い薔薇」のみである(遺伝子組換え農作物に関するQ&A:2020年7月12日確認)。
……という話をしたら,どうやら「赤いスイートピー」に対しても,品種が存在しないという俗説があるらしいことを,学生の質問から知った。ただ,大雑把に調べた限りでも,スイートピーには赤色を発現する遺伝子それ自体はあるようなので,青い薔薇とは事情が違う。

また,前回で「自然さからの議論(自然主義的誤謬)」をやった縁で,自民党のダーウィンの進化論の誤用について話した。

7月14日(第10回)

内容は2019年第13回に準ずる。文芸学部は時間が不足した。シミュレーションを現実の結果と等価のものとして受け取るのは我々の日常において当たり前のことであり,それを疑う態度である「地球温暖化対策慎重派」の読解はなかなか難しいところである。またシミュレーションの理解に必要な数学的知識を補う余裕がない。離散化や近似化について「わかりやすく」「簡潔に」話せるものだろうか。

7月21日(第11回)

内容は2019年第14回に準ずる。科学哲学の話題が,ポパーの「反証可能性」と,クーン「パラダイム論」だけなのは気になっている点である。ただ,この授業の趣旨としては(授業の表題通り)合理的な思考法についての話であるというので,バランスに悩む。また,今までブレークアウトセッションを学生任せにしていたが,教員が巡回した方が良かったのかもしれなかった。音声だけ聴けるように簡単な切替ができれば一番よいのだが。

7月28日(第12回)

内容は2019年第15回に準ずる。今学期はユニット2とユニット8も実施していないため,本来ならば見せるはずだった教材も提示して,まとまった内容の講義をした。2013年執筆の教科書であるため,内容の陳腐化は避けられず,実施するユニットの入替は検討に値する。あるいはユニット4などは,新型コロナウイルスに関連する内容に置換することも不可能ではないだろう。確証バイアスと利用可能性バイアスを考える課題は,討論せずに各自が考えた結果を提出させることとした。

8月4日(第13回)

内容は今年度から。中間レポートのリフレクションと,レポートの書き方についての授業。反響がとても大きかった。内容面・形式面ともに「大学のレポートの書き方」には授業1回分を費やす価値がある。「レポート課題として与えられた論点を批判的に検討する」という点で,クリティカル・シンキングにも繋がるだろう。今学期は準備に時間が掛けられず,最小限の実施になってしまったが,ブラッシュアップしていきたい。